ふれあいが自然に増える家

日本人の生活スタイルは、さりげないふれあいが基本にコミュニケーションがはかられると、述べてきましたが、ここでは、間取りとふれあいの関係について少し考えてみましょう。


 住宅の重要な役割のひとつに、家族のこころを健やかに育てていくことがあります。もちろん、こころの問題は複雑ですから、住まいだけで何とかなるものではありませんが、家族が毎日生活する器が大きく関係していることは否定できません。


 親子のふれあい、夫婦のふれあい、おばあちゃんやおじぃちゃんとのふれあいが家族一人一人のこころに、知らず知らずのうちに影響を与えつづけています。


 家族は会社の構成員とは違いますから、時間を決めて会議をしコミュニケーションをはかっていくわけではありません。家の中で自然にふれあうことで、コミュニケーションが生まれるのです。顔を合わした時、会話がさりげなく交されます。声が聞こえたとき、話しかけたりします。


 良い間取りとは、そんな家族の自然なコミュニケーションが、知らず知らずに増えていく間取りのことを言うのではないでしょうか。


 しつこいようですが、現代の間取りである何LDKにおいて、家族のふれあいはどうでしたでしょうか。前章を思い出してみてください。


 残念ながら、自然のふれあいのチャンスをあえて少なくつくっているとしか言いようのない間取りでしたね。家族がどこにいるのかよくわからない、姿が見えない、声がきこえない、いるのかどうかすら判然としない、それが、何LDKの間取りでした。


 広がり空間の家を前文で、たとえ建築面積は小さくても広々と生活できる家として紹介しましたが、この間取りは同時に、家族のふれあいが、意識しなくても自然に増える良さがあります。


 家族の生活は、お互いにきげんのいい時ばかりでなく、テストの点の悪かった時や、仕事が不調の時、夫婦喧嘩をしている時など様々な場面がありますが、そんな時こそ、自然のふれあいが必要なのですから、いかに間取りの役割が大きいかおわかりいただけると思います。


 広がり空間の間取りのコミュニケーションは、家族が家に帰ってきた時から始まります。子供が学校から「ただいま」と玄関を開けて家に入ってきた時の状況を想像してください。


 何LDKであれば、玄関ホールそして中廊下にまず入ります。そして、そのときの事情で子供は、母親を捜しにドアを開けて居間に入るか、そのまま、中廊下に続く階段を上ってまたドアを開けて自分の部屋へ入るかの行動をするでしよう。


 子供がまず母親に会いたくても、母親を捜す行動が必要ですし、先に自分の部屋に入ってしまえば、下にいる母親は、どの子供が帰ってきたのか、はなはだしくは泥棒かの区別もつかないのです。こんな不自然な生活があるでしょうか。


 この事情は子供と母親の関係ばかりではなく、家族全員の帰宅風景に当てはまるはずです。これをもっと自然に戻すのが、広がり空間の間取りです。


 広がり空間の間取りでは、中廊下をなくします。玄関を入ったら、玄関ホールをいったん引戸で仕切ります。これを玄関を独立させるといいます。


 そして、玄関ホールの引戸を開けて入ると、そこは家族空間になります。家族空間には、居間、食堂それに続く台所が一体空間でつくられ、階段それにからむ吹き抜けが二階空間とつながっています。


 この空間に、子供が帰ってきた状況を、再び想像してみてください。母親が居間や台所で仕事をしていれば、子供が、引戸を開けて入ったとたんにその姿が見えますね。


 「おかえりなさい。」「ただいま。」「今日のテストはどうだった。」・・・自然に会話がはずんでいきますね。
 子供も母親も、相手の姿がすぐに見えるからこそ、会話が自然に発生します。


 この自然な、さりげないふれあいが重要なのではないでしょうか。


 家族空間の中に階段があるということは、一層このふれあいを増すことになります。二階にある子供部屋から下へ降りてきた時、必ず家族空間に入り、家族の誰かと顔を合わすのですから。


 吹き抜けが、家族空間にあり二階とつながっているのも、一階の家族の生活と二階の家族の生活を分断しないための工夫なのです。一階にいても二階にいても、お互いにそれぞれの様子がわかりあえるのです。


 ましてや、台所と食堂が向き合っていて、食堂から居間が一体空間で構成されていれば、食後のあとかたずけをしながらも、家族の顔が見え、声が聞こえ、会話に入っていけるのです。


 このように、広がり空間の間取りでは家族のさりげない自然なふれあいを大切にしているのです。

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