シリーズ「健康住宅の基本」全13話 no.9
間取りをつくる時のキーワードに「広がり空間」を据えると、いろいろな発想が沸いてくるだろう。せっかくの家づくりだ、何LDKプランの呪縛にとらわれる必要はない。
自由な発想で自分たち家族にとって相応しい間取りをつくりあげていく、その考えていく礎に「広がり空間」を置いてほしい。
間取りを考えていく最初のステップが、「何のために、どうして家を建てるのか? 」その理由は何だろうかということだろう。あるいはこの動機がきちっと把握されていれば、もう家づくりは半ば完成しているようなものだとも言える。
家づくりの具体的で詳細な事項は様々あるだろうが、その本質的な目的は「家族とのより豊かな暮らしと、楽しい生活、そして健康的な営み」を過ごせる空間をつくる、ということであろう。
「生活の豊かさ、楽しさ、健康性」のおおもとは、何と言っても家族との人間関係にあると思う。そして人間関係の基本は、その距離感「つかず離れず」にある、それは家族関係でも同じだ。この距離感がよければ長くバランスのいい関係が可能となる。
間取りは、この家族間のバランスのよさを保てる距離感を演出できればいいのだろう。もちろん、この距離感は単純に物理的な事ばかりではなく、心理的要因、心の距離感も極めて重要なものとなる。
間取りをつくるその空間づくりのより具体的なヒントとして「見える、聞こえる、感じる」を置いてほしい。
生活をしていて、「さりげなく自然に、家族の顔や姿が見える空間」あるいは「家族の声が聞こえて、さりげない会話が自然にでる空間」、さらに「姿は見えない声も聞こえないとしても、家族がいるという雰囲気を感じられる空間」であってほしい。
中廊下がまるで主役かと勘違いしてしまいそうな何LDKプランの空間では、こうした家族の関係性はむずかしいのではないか。
例えば、玄関から中廊下を通って自分の部屋にまっすぐに行けてしまう、これでは台所仕事をしている母親と学校から帰ってきた子供との自然でさりげない会話の第一チャンスを逃がしている空間ではないだろうか。
子供にそっと静かに動かれたならば、台所の母親には、姿が見えないどころか、音も聞こえない、気配も感じないかもしれない。
子供が帰ってきたことに気づかない、最悪は、そのまま子供が外に出て行っても気づかないままなんてことも起こりうる。こんな事が日常となれば冗談話ではなくなるだろう。
中廊下に頼らない、そうした間取りが期待される所以でもある。我々はその間取りを「広がり空間」と名付けた。もちろん風通しも陽の当りも格段に良くなる。