つくる文化 鍛鉄 ロートアイアン

鍛鉄 

鍛鉄それはロートアイアンともいう。
真っ赤に熱した鉄を叩いてかたちをつくり出していく手法だ。鉄は無垢の木や漆喰など本物の材料とよく合う、尾山台の家では鉄を何とか使いたいと構想していた。

惚れている作家はすでにいる。尾山台に家をつくる片鱗もない頃に見知った人である。当時二人の住まいは都立大学駅そばのマンション。目黒通りに近いが、そこに作家のアトリエがあった。現在は違う場所に移転したが、ある日その前を通り、ウインドーを覗いた時二人の眼は点になった、いや見開かされた。
 

素晴らしいアイアン作品の数々。そのまま飛び込み、作家との出会いとなった。

倉田光太郎さんである。工房は山梨県河口湖のほとりにあるという。無口で朴訥との第一印象であるが、作品の表現力はゆたかだ、装飾的であり、抽象彫刻を思わせるものもあるが、その時心に残ったものは、やり過ぎない抑えたデザインの作品、シンプル、ミニマムなのだがきちっと計算されつくした要素と感覚の研ぎ澄まされた感性の高さを感じさせる作品である。

その後、何度かアトリエに訪ねた。尾山台の家の計画はまだ出現していないが、二人はこのアイアンを使うと未来の家の構想を抱いていた。

その数年後、尾山台の家の設計が始まった。倉田さんのアトリエは目黒通り沿いからいつの間にか姿を消していた。一瞬あせったが、張り紙にあった連絡先で連絡はとれた、ほっとした瞬間である。
 

快く尾山台の家の仕事を引き受けてもらった。玄関明かり窓の飾り格子、階段手摺り、階段吹抜けまわりの格子、出窓フェンス、2階階段出入口のドッグフェンス、移動式のドッグフェンスそして玄関フェンスさらにロフトヘいく手摺りの取付け金具を相談した。

デザイン、設計はすべてお任せしたが、あがってきた設計はシンプル、ミニマムそのもの。一度で魅せられてしまった。「シンプルでなければすぐに飽きてしまいますよ。住宅は長く住むものですから、ミニマムなデザインが一番です。」と倉田さん。
 

実は、鍛鉄もインターネットでずいぶんと調べもした。

しかし、倉旧さんを超える印象を受けたものはない。みんな、やりすぎているのだ。私はこんなこともできますのオンパレードに思えた。

私たち二人も中年期を越えた。一見目立つデザインよりも、成熟し抑えられた作舶に魅せられる。目立つだけなら簡単であるが、抑制されたデザインの中に魅力を放てるのは本物にしかできない。 

その本物の美しさが第一案で示された。塗装のサンプルも見事であった。川凸のあるつや消しの黒、鉄という堅さがとれやわらかさが表現されている、見事。

そして現場採寸。内装工事完成後の取り付けと順調に進んだ。 

それから2年近く、いまでも飽きない、いまでも美しいと思える。人間は何にでもすぐ慣れてしまい、美しい物も醜い物もあっという問に感じなくなってしまうが、シンプルミニマムの本物は違う、毎日毎円感激している訳ではないが、折に触れ、ちょっとした瞬間に、放たれる美のエネルギーに心奪われる瞬間がある。 

素材をいかしたシンプルなデザインは難しい、使う材料の太さ、間隔のわずかな違いで印象が変わる、まして鉄のような質感、量感の強い素材は、成熟した繊細なデザイン感覚が必要とされる、倉川さんありがとう。

尾山台の家は、この鍛鉄作品によってその価値を倍増した。最後に、毎日何度となく触れている階段の手摺り、鉄であるのに触ってやわらかい、手になじむ、冬でも暖かくすら感じることをお伝えしたい。

若林礼子 (2008.9故人になりました)

本質を暮らす贅沢な家より

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