毒ガスの中に住んでいる

毒ガスの中に住んでいる

1994年の告発
毒ガスの中に住んでいる 

アレルギーの原因がダニにあるとわかった時から、ダニ殺しの薬剤が家の中にものすごい勢いで侵食してきた。

 実はダニに限らず、ハエ、蚊、ゴキブリ用の殺虫剤はすべてその成分が農薬である。何となく夏の情緒を思いおこさせる蚊取り線香もその成分は同じである。今や住まいの中は農薬だらけと言っても決して過言ではない。

 薬局やスーパーに所狭しと並べられている数々の殺虫スプレー、毎日のようにテレビで流される殺虫剤、防虫剤のコマーシャル、その毒性に気付いて見ている人はどのくらいいるのだろう。案外知らずに使ってしまっているのではないだろうか。

 米や野菜、果物に使われる農薬に対してはかなりの人が意識しはじめてきている。しかしながらその農薬と同じ成分の薬剤が、殺虫剤や防虫剤に使われ、自らの手で室内にばらまいてしまっているということに気付いている人は少ないかも知れない。

 殺虫剤の中では最も多く使われている有機隣系の薬剤。スプレータイプのものや燻煙剤はみなそうである。恐らく、一般家庭でも相当に使われているはずである。

 この有機隣系の薬剤は神経毒といって虫の神経をマヒさせる。ところが虫だけでなく、私たち人間の視神経系へもかなりの害を及ぼすものである。

 最近の子供の視力低下や近視の原因の一つに、家庭で使われる殺虫剤が挙げられている。視力の低下もそうだけれど、頭痛や吐き気などがあっても、ほとんどはその原因が有機隣系の薬剤にあるというふうには結び付けて考えない。

 神経毒は、かつてナチスドイツがユダヤ人殺害に使ったほどのものである。有機隣系の薬剤による急性中毒は重傷の場合は死にさえ至るものである。安易に家庭で使われている実態は怖い。

 マンションなどでただいま燻煙中、なるはり紙をして留守にしている部屋を見かける。確かに、家の中のゴキブリは不衛生だし、何ともあのグロテスクな黒光りをしたゴキブリが姿を出すとぞっとする。

 ゴキブリはまだ目に見えるけど、ダニは目に見えない。子供がダニにでも刺されようものなら、薬剤を使ってでも何でも退治しようという気持ちはわからないではない。見えない相手との戦いである。しかもどれだけの数のダニが潜んでいるかわからないとなればなおさらのことであろう。

しかし、燻煙剤は室内のあらゆるものに染み込んでしまう。その後どんなに換気してもなかなか抜けない。室内にいた虫を殺すだけでなく、後から室内に入ってくる虫にも効力を発揮させることが目的なのだから当然かも知れない。

 しかし何でも口に入れてしまう幼児、そこら中ハイハイし回る赤ちゃんにとってはこの上なく危険なことである。

 赤ちゃんの防虫剤による事故も見逃せない。防虫剤を口に入れてしまい、それこそ救急車で運びこまれるケースが結構あるという。

どの家庭でも恐らく使っている防虫剤、パラジクロロベンゼン、昔はトイレなどにも丸い玉がぶら下がっていた。最近はいろいろとかたちも洒落たものになって、香りなどもついている。

 このパラジクロロベンゼンはかなり強烈な農薬の成分である。有機塩素系農薬。現在は使用禁止となっているDDTと言えばご存知の方も多いと思うが、同じ仲間である。

 発癌性、奇形児が生れる原因となる、催奇性、蓄積性、難分解性、脂肪に溶けやすい脂溶性、と農薬の害をかねそろえている。

 脂溶性があるということは簡単に人体の細胞へと浸透してしまう。また、二十年前に使用されていたDDTが、今でも牛乳や母乳から検出されるという事実は、蓄積性の恐ろしさを語るに十分と思われる。

 いずれにしても、固形のかたちがなくなるまでジワジワと気化し、薬剤効果を発揮する。

 衣替えの季節ともなると、昔は電車の中などでも防虫剤の臭いをぷんぷんとさせている人が結構いた。最近はいなくなった。

 恐ろしいことに毒性を残したまま、臭いだけが消えたのである。臭わないタイプの防虫剤には、さらなる注意をして欲しい。

 同じく家庭用殺虫剤の中で毒性を残したまま、煙の消えたものがある。お気付きだろうか。電気蚊とり器である。部屋に蚊がいなくなっても、マットに染み込まれたピレスロイド系の薬剤が、電熱で加熱され毒ガスとなって室内に漂う。これも同じく神経毒である。

 住まいの中の思わぬ毒。ダニを殺そうと薬剤を使う、その薬剤の成分でさらに健康を損なう。悪循環ではないか。

若林礼子  (2008.9に故人となりました。)
book 「プラス思考の健康住宅づくり」1994年発行 より

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