尾山台の家

シンプルな間取り

シンプルに生きたい。当然、間取りもシンプルになる。 尾山台の土地に決めたと同時に間取りの原型は決まって いた。その原案と実際の住まいとはほとんど変わっていない。
2002年春の休日、買物途中の車内で、どちらとも なく土地を探そうかと言い出した。その直後、道路際の 不動産屋に飛び込んだ。当時は、都立大学駅横のマンションに住んでいた。尾山台は目と鼻の先であったが、二人ともその地名すら知らなかった。不動産屋のお兄さんが 車で自社開発中という尾山台の土地を案内してくれた。
そこは環八沿いファミリーレストラン駐車場裏しかも崖下と納得できる土地ではなかった。お兄さんがついでにと周囲をぐるりまわってくれた。崖下の土地とは一変、 素晴らしい住宅地が続いている。へえ-こんな所があっ たのだ。


これを機に目前に迫ったゴールデンウイークに土地を 決めようと二人決意。不動産屋さんも変えて大手と地元 密着の二社で紹介してもらったり案内してもらった。多 摩地区から城南地区を幅広くまわったが、気づいたら尾 山台に戻っていた。地元密着の会社が最後に紹介してく れた土地、当時広告には載っていなかった物件である。


200坪を超える土地で大きなお屋敷が残っていた。その一角なら交渉する側信があるとのこと。東南の角の高台を予算に応じて切り取れるという巾し入れである。その土地から多摩川の河川敷まで徒歩10分。当時は柴の子どもたちだけであったが、さっそく連れてきて多摩川まで歩いた。広々とした草地に足を踏み入れたとたん子どもたちが狂喜した。これまでに見たことのない姿であった。


土地の決まった瞬間である。
不動産屋さんの交渉も見事で無事土地取得。妬坪強のかわいらしい高台の土地である。敷地延長で別、近く入るため通路に10坪ほどとられてしまう建蔽率40容積率80%の風致地区、そこに35坪ほどのこぢんまりした家を建てることになった。
二人の思い描いた間取りは、ほとんど一緒だった。そ れを少し整理して設計者にまとめてもらった。1回で基 本プランは完成。

そのコンセプトは、シンプルな生活、柴の子どもたちとの共生、セキュリティ。もちろん前提には、自然素材、 エコロジーな健康住宅PAC(76〜78頁参照)がある。
本当は空間を仕切るドアや引戸は一切使いたくなかっ た。しかし、これは無理。何故ならばわが家は柴の子どもたちとの共生、さらに一人増える予感もあった。その子どもたちも家の中で自由にと思っていた、そうなると状況によって空間を仕切れる工夫が要る。そのための仕切りとしてドアや引戸はどう考えても必要となった。


子どもたちだけで皿時間の生活がある。ほとんど寝ているのだが、その場所を玄関と決めた。仮住まい以来ケー ジ生活に幸い慣れていた。ケージを二つ置くため広めの 玄関を、と設計打合せしつっ心の中では三つだよなとお互いに思っていた。

尾山台の家

高台の眺望をいかすためメインの生活空間を2階に もってきた逆転プランとした。玄関から寝室スペースと 洗而浴室スペースにつながる。階段は玄関脇とし手摺り を挟んで玄関と連なっている。2階はワンルームで、リ ビング・台所スペース、リビングの上にロフトがあり空 間的に連通している。地下室も5坪ほど設けた。

尾山台の家


図而でもわかるようにかなりシンプルである。二人だ けの住まいであれば、すべてのドアと引戸を省略できる間取りでもある。子どもたちの生活空間を考えて、1階 にドアと引戸をそれぞれ二つ、2階はドア一つとそれでも最小限とし、建具の高さは天井までと開放感ゆたかにした。それ以外に地下室への入口はトリックドアにしたい、何とか壁に見せようと工夫を重ねたが、結局収納扉よろしく折れ戸となった。浴室は3枚引戸である。


引戸は玄関を仕切るものと洗而スペースを仕切るものこつであるが、実際の生活においてはほとんど開け放されている。基本的に閉じられているのは寝室と2階トイレのドア、地下室への折れ戸だけである。1階のトイレは洗面室の中にあり家具で仕切られているオープンなスタイル。2階のトイレもドアなしでも視覚に入らない設計になっている。来客や子どもたちの侵入など気にならない方には参考にして欲しい。ドアストッパーもいちいち腰をかがめては面倒なので磁石タイプとした。その結果、開閉は引戸なみの気楽さとなった。

尾山台の家浴室洗面

シンプルでオープンな空間は間違いなく暮らしやすい。二人ともトイレは1階でと合い言葉のように2階はあまり使わない。どうして?答えは同じ、「だって、 ドアを開けずに入れるか」。2階は来客用のトイレとなった。

寝る時は1階の二つのドアを閉めて、玄関・階段そして2階リビングを子どもたちに開放する。1階は寝室と寝室脇収納スペースそして書斎コーナーを介して洗面スペースがひとつながりになっている。洗面の引戸は開放したままである。それぞれの空間はアルコーブ的に配置されているので、どこにいても落ち着きはある。それでいて視覚的にもほぼ連なり、自在に歩けてストレスがない。慣れた動線のせいか真夜中のトイレもホタルスイッチの明るさだけで不自由はない。子どもたちもケージの中、階段途中、リビングでとそれぞれ勝手に寝ている。


朝、寝室の気配を感じ起きるコールをする。朝寝したい時は、息を殺してじっ-としていればコールの時間は遅 くなる。
朝起きて二人はそれぞれの身支度をするが、その間、仕切りを開け閉めする必要のないオープン空間、単純なことだが快適な朝のスタートとなる。
家にいる時間のほとんどは2階の空間で過ごす。2階の中心は、キッチン。キッチンに立つとトイレを除き、2階空間のほとんどが見渡せる。リビングの窓から外の景色までがⅡに飛び込む。

尾山台の家階段まわり


この家のもうひとつのコンセプトは、「つくる、食べる、 片づける」。まさしくキッチンが中心となる。

2階空間のゆたかさは平而的広がりばかりではなく、ロフトを利用した縦空間にある。メインの食卓をキッチンとカウンター越しに連なった空間に置いているが、その天井は2.2m、と通常よりもほど20㎝低く抑えてある。食卓の端50㎝は天井からはずれ、ドーンと高い吹抜け空間に位置している。逆転プランの良さがここにある。屋根勾配に合わせて縦に大きな空間構成ができる。これにロフトをか らめ、利便性ばかりでなく視覚的にも雰囲気的にも変化 に富んだ居心地のいい空間をつくることができる。

尾山台の家


さらに尾山台の家では斜線制限を利用して、北側と西側の天井の端が低く斜めに抑えられている。これがまた良い。変化と落ち着き、使い勝手の良さ、雰囲気と利便性をかね備えたゆたかさを与え、2階全体のオープンで大きい空間をきりりと引き締めている。
ロフトは2坪ほどであるが、家具階段で上がり、その空間はリビングと一体である。腰壁があるため下部の視線は遮られている。ここは唯一の畳の間。琉球畳を使い視覚的に広く見えるようにした.子どもたちは家具階段を上れないので、ほっとする空間でもある。この間を瞑想空間と名づけた。北側天窓の安定した光、座ると落ち着き、下を見るとダイナミックな光景が飛び込む。こうした変化と落ち着きは尾山台の家どこにいても得られ
る、シンプルにしてあきない空間がここに完成した。

若林礼子

書籍「本質を暮らす贅沢な家」より

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