尾山台の家

夫婦別室、日本では今も昔も普通のこと?

実際に別室で暮らしている夫婦が多いのに、何故取り立てて別室が良いか悪いかの議論にな るのか不可解な気がしている。 ところがこの別室か同室かの議論が、外国人の間で話題となっていることを知ってさらに驚 いた。

以前、『ジャパンタイムズ』の取材を受けた。欧米諸国では夫婦別室ということは考えに 及ばないことであり、日本で実際に夫婦でありながら、別々の部屋に寝ているなんていう事実 が信じがたいことなのだそうだ。

日本人には、気持ちを汲む、とか、目は口ほどに物を言い、とか、言葉にしなくても何とな くわかり合える、テレパシーで会話しているのではと思えることも多い。こうした感情の機微 は日本特有のものなのかもしれない。


一方欧米人は、長い時を共に暮らしてきた夫婦間においても、お互いの気持ちを言葉によって、口にすることによって確認し合っている。

しかしこういった風習は日本にはない。むしろ 日本人の感覚の中には、わざわざ口にしなくとも考えていることは伝わるだろうとか、長年つれ添ってきたらそのくらいのことは察しがつくだろうといった、表情や雰囲気からわかるということが一種の美徳とされてきた節がある。

いい意味でも悪い意味でも「嘘も方便」的な、本音と建前の使い分けを会得している日本人 とら は、言葉とかかたちには、あまり囚われないのかもしれない。

言葉が信じられないということ ではないけれど、たとえ本音で話しても、きちっと伝えることはとても難しい。受けとる側の 心理状況もあるし、いずれにしろ一つの言葉ですらお互いの共通用語になるには、かなりの時 間がかかるようだ。

日本でも離婚が増加の一途をたどっているがそれでも、欧米には追いつかない。おそらく欧 米では、言葉で愛情表現が伝えられなくなったり、夫婦が同室であることに疑問を感じるよう な状況になれば、夫婦のかたちは解消ということなのだと思う。

気持ちに素直、でも言葉やかたちを重視し過ぎての結論、ということはないの?と思ってしまう。

日本では夫婦が別々の寝室に寝ていたからといって、お互いの信頼関係が失われているわけ でもないし、離婚を考えるようなことではなかったりするのだから。

もっと怖いのは、同室でありながら、こころは冷え切った夫婦関係の方かもしれない。どち らかが別室なんてことを言いだしたら、それがきっかけとなって別れることにもなりかねない ともなれば、かえって慎重になるのではないだろうか。

だから反対に、多少ギクシャクした関係の夫婦が寝室を別々にしている場合は、まだお互い あかし に離婚というところまでの段階になく、できればまたお互い向かい合いたいという証なのかも しれない。

昔のように何かあっても別れないことを前提に問題解決の道を模索して、特に女性が我慢することで夫婦関係が成り立っていたというような時代ではない。若い頃は別れたいと思っていたのに、年をとると我慢からだんだんあきらめに変わってきた、なんていう過ちは繰り返さな いと思う。

もっとも、そうした中から今まで気づかなかった愛情がお互いにいつしか育まれ目 覚めてくるといったケースも多いようだが、そうではなくただ我慢というケースは美徳ではな くて、自分ばかりか相手にもとてもマイナスなことだと思う。

しかも、こうした夫婦の下で育った子どもは、夫婦間の愛情がない分、愛情も関心も異常に子どもに注がれて、親が子離れできない。結果として子どもの自立の芽を摘んでしまうなんていう悲劇まで起こり得ることになる。

いずれにしろ、夫婦別室の定着には、女性の自立、そして経済的自立という側面が大きい。 最近の女性の仕事に対する姿勢は、結婚しても続けたい、そして結婚してからも経済的自立は めざしたいとのこと。確かにこれからの時代、人口は逆ピラミッドになる一方。人から面倒を みてもらわなくてもこころも身体も死ぬまで元気でいなければならない。


たとえご主人が経済を支えていて、女性は家庭を守り、家事や育児に専念している状況に あっても、精神的に自立している女性は多い。そうした女性たちの変容ぶりを語る一つとして、 象徴的にとりあげられたのが夫婦の別室ということだと思う。


夫婦の寝室が別室であっても、そんなにとりたてるほどのことではないことと、さらりと受 け入れられる日本の夫婦のあり方は、精神的に成熟した姿とも受けとれる。


また常識といった社会の規制枠に囚われない、もっと自由な生き方の象徴ともいえるのでは ないだろうか。

若林礼子

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